窪田忠彦著の『初等幾何学作図問題』内田老鶴圃, 1951 を読みながら調べたこと等を纏めながら考える

第1章 作図可能問題

§1 定木のみを用いる作図


 定木のみとすると直線しか引けないことになり、定木だけでの作図可能なものは非常に限定されてしまうだろうと直感する。素人なりには、定木だけでの作図を考えることは無駄なことのようにも思えてしまう。

しかし、

ここで窪田は、作図不可能なものと、可能なものをひとつづつ例題を上げている。

まず、不可能な例。

[問題 1] 線分を二等分すること。

D. Hilbert が1912年ゲッチンゲン大学で講義に用いた方法により、この問題が作図不可能であることを証明している。

そのヒルベルトの証明は、平面α上で線分 AB の中点 M が定木のみでできたとして、その直線の射影を任意の平面β 上に作って、対応する作図を平面βの上でやれば、点 M の射影である点 M' に到達し、この M' は、線分ABの射影であるA'B'の中点でなければならない。

しかし、M' が A'B' の中点でないように射影することができるから、これは矛盾である。すなわち線分の中点は、定木のみで作図不可能であるという。

読者として、? がうかぶのは一次の射影的問題のことをわかっていない、いや、理解しないと次に進めない立場に読者を著者は追い詰めるのが目的なのだろうか。

次に可能な例。

[問題 2] 調和共役点を求めること。

ここで窪田は、射影的作図問題というのは射影によってかわらないような図形を作図する問題であると定義している。

さらに、窪田は次のような定理を示し、脚注で第5章§4を参照するように示し、そこではパスカルの定理がでてくる。今回の通読では、次の定理とその例題として「問題2」を考えることにする。

定木のみで解かれる作図問題は一次の射影的問題に限る。

問題2は、一直線 g 上に 3 点  A, B, P があたえられたとき、 2 点  A, B についての点 P の調和共役点 Q を求めることである。


 ーーーーーーーーーーーーーー gーーーーーーーーーーーーーーーー
    A                                        P                          B                        Q

調和共役点 Q は、線分 AP, PB, AQ, QB について、

AP / PB =  - AQ / QB

の関係式を満すものである。

この問題1 と 問題2 を自力で考えてみて、この著者のやり方というか方向性が少し見えかける。目指すのは相当に高い山への登頂だということで準備なしでもいいのか?遭難するのではとやや不安になってしまう。

そこで、ちょっと素人かつプログラム好きな立場で、グラフを描きながら味わってみようと考えた。

GeoGebra など現代の便利なアプリケーションもあるが、ここは、ちょっと古典のテキストを読むので、古いプログラム言語でやってみる。


Figure2.ex

-- グラフィックの基本命令
-- 定木と直線

-- 第1章 作図可能問題 §1 定木のみを用いる作図 第2図
-- Euphoria 3.1.1 + lib2v141 on Linux Mint 20 
-- 2020.7.17

include japi.e

constant DELAY = 1000

if j_start() = J_FALSE then
   puts(1, "can't connect to JAPI server")
   abort(1)
end if

integer jframe, canvas

jframe = j_frame("Q is Harmonic Conjugate of P w.r.t. A and B. A Proof using Ceva's Theorem and Menelaus's Theorem")
j_setsize(jframe, 800, 800)

canvas = j_canvas(jframe, 800, 800)
j_setpos(canvas, 10, 30)

j_pack(jframe) -- to the minimal size
j_centerframe(jframe) -- middle of the screen
j_show(jframe) -- shows the component obj

j_setnamedcolor(canvas, J_BLUE)

-- j_sleep(DELAY)
-- point A(10,600) P(230,600) B(340,600)
-- X=230-10, Y=340-10, Z=660-10

j_translate(canvas, 10, 10) -- moves the origin of drawing
j_drawline(canvas, 10, 600, 670, 600)
j_drawstring(canvas, 5, 615, "A")
j_drawstring(canvas, 500, 590, "g")

j_sleep(DELAY)
j_drawstring(canvas, 500, 20, "1. Take three points A,P,B on a line g.") 

j_sleep(DELAY)
-- j_playsoundfile("file:///home/manabu/src/euphoria/jerimee.ogg")
j_drawstring(canvas, 340, 615, "B")

j_sleep(DELAY)
j_drawstring(canvas, 230, 615, "P")

j_sleep(DELAY)
-- point O(380,50) and point C(205,310)
j_drawstring(canvas, 500, 40, "2. Choose a point O.")
j_drawstring(canvas, 380, 40, "O")
j_drawstring(canvas, 500, 60, "3. Draw three lines OA,OP and OB.")
j_sleep(DELAY)
j_drawline(canvas, 380, 50, 10, 600) -- line OA
j_sleep(DELAY)
j_drawline(canvas, 380, 50, 230, 600) -- line OP
j_sleep(DELAY)
j_drawline(canvas, 380, 50, 340, 600) -- line OB

j_sleep(DELAY)
j_drawstring(canvas, 500, 80, "4. Choose a point C.")
j_sleep(DELAY)
j_drawstring(canvas, 200, 300, "C")

j_sleep(DELAY)
-- line CB
j_drawstring(canvas, 500, 100, "5. Connect C and B")
j_sleep(DELAY)
j_drawline(canvas, 205, 310, 340, 600)
j_sleep(DELAY)


j_sleep(DELAY)
-- point M(355,400)
j_drawstring(canvas, 500, 120, "6. CB cuts OP at M.")
j_sleep(DELAY)
j_drawstring(canvas, 250, 450, "M")

j_sleep(DELAY)
-- line AM,MD
j_drawline(canvas, 10, 600, 355, 400)
j_sleep(DELAY)

-- point D(355,400)
j_drawstring(canvas, 500, 140, "7. Extension of AM cuts OB at D.")
j_drawstring(canvas, 360, 400, "D")

j_sleep(DELAY)
-- line CD
j_drawline(canvas, 205, 310, 355, 400)

j_sleep(DELAY)
j_drawstring(canvas, 500, 160, "8. Extension of CD intersects line g at Q.")


-- point Q(670,600)
-- Z=670-10
j_sleep(DELAY)
j_drawline(canvas, 380, 50, 230, 600)
j_drawline(canvas, 355, 400, 670, 600)
j_drawstring(canvas, 670, 615, "Q")
j_drawstring(canvas, 5, 630, "0")
j_drawstring(canvas, 230, 630,"X")
j_drawstring(canvas, 340, 630,"Y")
j_drawstring(canvas, 670, 630,"Z")

j_sleep(DELAY)

-- Ceva's Theorem shows
-- OC/CA・AP/PB・BD/DO = 1

j_drawstring(canvas, 50, 660, "Ceva: OC/CA x AP/PB x BD/DO = 1")


j_sleep(DELAY)

-- Menelaus's Theorem shows
-- OC/CA・AQ/QB・BD/DO = -1

j_drawstring(canvas, 50, 680, "Menelaus: OC/CA x AQ/QB x BD/DO = -1")

-- AP/PB = - AQ/QB

j_sleep(DELAY)

j_drawstring(canvas, 50, 700, "So, AP/PB = - AQ/QB")

j_sleep(DELAY)
j_drawstring(canvas, 400, 660, "X/(Y-X) = Z/(Z-Y)")

-- X=220, Y=330, Z=660
-- 220/(330-220)=22/11=2
-- 660/(660-330)=66/33=2
-- したがって、
-- (A, B; P,Q) は調和列点である。

j_sleep(DELAY)
j_drawstring(canvas, 400, 680, "For example, X=220, Y=330, Z=660")
j_sleep(DELAY)
j_drawstring(canvas, 400, 700, "220/(330-220)=22/11=2")
j_sleep(DELAY)
j_drawstring(canvas, 400, 720, "660/(660-330)=66/33=2")

j_sleep(DELAY)
j_drawstring(canvas, 400, 740, "Thereafter, A,P,B,Q form a harmonic range.")


while j_nextaction() != jframe do

end while

j_quit()

以上がコード。

実行結果は、Linux Mint 20 のスクリーンショットを載せておく。

 




§2 スタイネルの研究

この 作図可能問題 第2節で著者はいきなり高級というか高度な幾何学への入口に読者をさそう。その入口が「スタイネルの研究」と名前名付けられた節である。

ヤコブ・スタイネル、この人はすごい数学者だ!しかし、専門家にしか知られていない。窪田は「Steiner(1796-1863) 幾何学の総合的方法に専念した有名なドイツの数学者」と脚注で簡単に示しているだけである。ちなみに窪田は、 Jacob Steiner とつづっているが、Wikipedia などを見ると Jakob Steiner となっている。

ただ、スタイネルについて日本語版ウィキペディアで、解説を残念なことに見つけることができなかった。窪田忠彦が今生きてれば書いてほしかった。

英語版ウィキペディアに掲載されている Jakob Steiner の肖像画

以下、簡単にスタイネルについて調べたことをまとめてみる。情報源は次のリストによる。


Jakob Steiner (1796 - 1863) は、スイス生れの数学者。


スイスのベルンから北へ24km 行った Utzensdorf で誕生した。8人兄弟の一番下だった。しかし父親は貧しい小作農だっために、幼い頃から両親の農場での手助けをしていた、14才まで読み書きの教育を受けれなかった。しかし、17才のとき有名な教育者ペスタロッチの生徒となりこれがその後の数学者スタイネルを育てる基礎になったと言える。このスタイネル少年の心に数学への愛が育っていくのだった。
スタイネルは25才のとき(1821)、ベルリンで数学の私塾をひらき、まもなくGewerbeakademiでの教師の職を得た。
彼の名前が知られるようになったのは、雑誌 Crelle's Journal のおかけだった。この雑誌への主な寄稿者は彼と Abel であった。1834 年に Jacobi、Crelle、それに von Humbolt らによってベルリン大学に彼のポストが創設された。


窪田がこのテキストで本格的に取り上げている作図問題は、

ポンスレースタイネルの定理 (Poncelet-Steiner Theorem)

である。

テキストでは、


ユークリッド幾何学からはじまっていらいの定木とコンパスによる作図問題についての考察。定木とコンパスで作図できる全ての問題が、固定された円がひとつあればあとは定木だけで作図できることを証明した。すばらしい。

これには、ポンスレとスタイネルの二人の数学者がかかわった。

1822 年にポンスレがこの定理を提案し、スタイネルが1833年に証明した。

ウルフラムの MathWorld に歴史的な由来とその定理の内容を解説した書籍へのリンクがあった。


どうやらこの本が良さそうな気がした。

100 Great Problems of Elementary Mathematics (Dover Books on Mathematics)


キンドルでしばらく時間をかけて読んでみる。




......


まだ読書中なのだけど、やはり定木 ー この本では Straight-edge geometry と表現されている ー この定木だけで作図を試みるやり方に挑戦した数学者は18世紀には何人かいて彼等の固定された円を同一平面に置くということが問題解決の手口だったとわかる。

自由にコンパスを使うかわりに、円を固定しそれを利用するというのは直感的になにか納得がいくやり方だ。

しかし、このドーバーのキンドル本は買って正解だったというか他のページにも面白い古典数学の問題があって、なかなか楽しい。どうもちょっと窪田先生のテキストから読んでると時間がどんどん経つ。

























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